神殺しのクロノスタシス2
「クュルナとかいう魔導師達からは、情報を引き出せるだろう。『禁忌の黒魔導書』の捜査は、何処まで進んでる?」

…なんて聞かれても。

「それが連中、別段連携して事を進めてる訳じゃないっぽいんですよね」

僕も、同じことを考えた。

クュルナ達を通して、捜査の進捗状況を盗み見出来ないかと。

しかし、これがなかなか上手く行かない。

「単に、まだ何も掴めてないだけなのか…。それとも、禁書の捜査は、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアだけが情報を握って、他に漏らすつもりはないのか…」

「…ちっ」

いや、僕に舌打ちされても。

前者なら単純に嬉しいけど、もし後者だとしたら…。

クュルナ達から盗み見て、捜査の進捗状況を確認するのは、諦めた方が良さそうだ。

やはり、観察するなら、当事者でないと。

つまり、シルナ・エインリーと羽久・グラスフィア。

この二人を観察しないことには、重要なことは分からない。

中身が空っぽのシルナ・エインリーの分身では、意味がない。

ちゃんと本人でないと。

「どうします?危険を冒して、学院長室に乗り込んでみますか?」

どうやらあの学院長様は、訪ねてきた生徒にお茶と菓子を出し、優雅に雑談するのが趣味らしいし。

やろうと思えば、出来なくはない。

ルームメイトのユイト・ランドルフでも誘って、何人かで行っても良い。

遊びに来た無邪気な生徒の振りをして、じっくり観察させてもらうのだ。

しかし。

「…いや、それはまだやめておけ」

「意外に慎重なんですね」

あなたなら、やれと言うかと思ったのに。

「あいつの観察眼を舐めるな。ただの一生徒に過ぎないお前が、いきなり訪ねてくれば…何かあると勘繰るかもしれない」

ましてや僕、一年生だもんな。

これで学年がもっと上がれば、気さくに学院長室を訪ねても不審がられないかもしれないけど。

まだ学院に慣れるのに必死、学院長に対しても、親しみより畏怖を感じている…。そんな一年生が、いきなり訪ねてくれば。

そりゃあ、何かあると勘繰られてもおかしくない、か。

ボロは出さないよう、注意しているつもりなんだけどな。

「それよりも、取り入るなら羽久・グラスフィアだ」

「羽久…。そりゃあの人を観察出来るなら、話は早いですが」

「奴の授業を受けることはないのか?」

「ないんですよねぇ、これが…」

あの人、時魔法の授業担当だし。

一年生には、時魔法の授業は開講されてないし。

授業で会う機会がない。

「機会があればやってみますけど…。羽久・グラスフィアも危険ですよ」

伊達に、あの学院長の横に立っている訳ではない。

「分かっている。だが、取り入るなら奴の方が良い。それに…奴が何を考えているのか、個人的にも興味がある」

「…ふーん…」

まぁ、あっちもあっちで、色々隠し事の多い人間だからな。

僕も興味はあるけど。

「…努力はしてみますよ。ただ、羽久・グラスフィアとは本当に接点がないので…」

「分かっている。焦る必要はない。少しずつ探れば良い」

「その前に僕の正体がバレたら、終わりじゃないですか」

「そのときは、『最終手段』だ。分かっているだろう?」

…そういえば、そうだったな。

全く、あんたは考えることがエグいよ。

あのシルナ・エインリーに負けちゃいないな。

なんて口に出したら、ぶちギレるだろうから、言わないけど…。
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