神殺しのクロノスタシス2
その日の実技授業。

稽古場に現れたのは、いつものシルナ・エインリーの分身ではなく。

「はいはい、皆集まってー」

現れたその人物に、生徒達から思わず歓声があがった。

僕も、思わず目を見開いた。

羽久・グラスフィアだ。

基本、時魔法の授業しか請け負わない羽久・グラスフィアが。

まさか、一年生の実技授業を、彼が担当するとは。

皆が歓声をあげるのも、無理はない。

羽久・グラスフィアは、基本的には上級生にならないと、お目にかかる機会はないからな。

「時魔法の実技じゃないけど、今日は特別に、俺が担当します。宜しく」

何かあるのではないかと、そっと羽久・グラスフィアを観察する。

…大丈夫そうだ。

どうやら、何かを勘繰って来た訳ではないようだ。

単に、今日この授業を担当するはずだった無闇・キノファが、魔導部隊での任務に駆り出されたから仕方なく、ということらしい。

良かった。

これは、もっての機会だ。

上級生にもならなければ、羽久・グラスフィアと相見えるチャンスはないと思っていた。

それが、こんな形で会えるとは。

運命の女神様の、粋な計らいって奴か?

羽久・グラスフィアが言うと、皮肉以外の何物でもないな。

ともかく、この男に会えたのは絶好のチャンスだ。

…だが、喜んでばかりはいられない。

これは、実技の授業なのだ。

いつもは、大抵シルナ・エインリーの分身か、最近では無闇・キノファ辺りが担当しているけれど。

今回は、この羽久・グラスフィアだ。

シルナ・エインリーの右腕だ。

普段の実技授業では、僕はいつも手を抜き、本当の実力がバレないように、加減してきた。

上手く隠しているつもりではあるが。

果たして僕は、羽久・グラスフィアの目を誤魔化すことが出来るだろうか?

僕は、瞬時に考えを巡らせた。

もし無理なようなら、体調が悪いとか何とか言って、逃げても良い。

こんなところで正体がバレるより、遥かにマシだ。

…でも…。

「…」

…試してやる。

僕の実力を、見破ることが出来るのか。

それが出来るなら、あんたは本物だ。

だが、もし気づけないなら、それまでのこと。

「はい、じゃあ順番に魔導人形に向かって、今日は風魔法を使ってもらおうか」

僕は、杖を強く握り締めた。
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