神殺しのクロノスタシス2
「…」

…成程。

幸いなことに、今の魔法で、僕への疑いを抱いた…って訳ではなさそうだが。

だが、やはりやり過ぎたようだ。

僕に何か企みや悪意があるのかと、そこまで深く勘繰ってる訳じゃない。

でも。

「一年生の割には、やたらと風魔法の得意な生徒」として、僕のことが印象に残っているようだ。

もう少し、力をセーブするべきだった。

今更言っても仕方ないが。

イーニシュフェルト魔導学院は、所謂天才魔導師の卵達が集まっている。

一人二人くらい、何かの魔法に突出した生徒がいるのは、珍しいことではない。

だが僕はあくまで、平均的な、特に可も不可もない生徒だと思われていたかったのだ。

その方が、潜入には具合が良いから。

それなのに、どんな形であれ、教師に目をつけられてしまった。

しかもよりにもよって、シルナ・エインリーの右腕、羽久・グラスフィアに。

これは痛かった。

「…」

まぁ、過ぎたことは仕方がない。

それより、折角羽久・グラスフィアが目の前にいるのだ。

シルナ・エインリーほどではなくても、この男を観察するのは、大変有益だ。

もっと深く掘り下げて、見てみよう。

この絶好の機会を逃す手はない。

僕は、羽久・グラスフィアをじっと見つめた。

彼のことを知るのだ。

シルナ・エインリーの、一番近くにいるこの男のことを。

何故、あの男の味方をしているのかも含めて。

羽久・グラスフィアという人間のことを、

「…あっ」

その暗い深淵を見て、僕は思わず声を出した。
< 90 / 742 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop