神殺しのクロノスタシス2
「…ナジュ?」

「…あの人…」

あの人…あの人は、にせ、

「ナジュ!大丈夫か?」

「…!」

ユイトに名前を呼ばれて、僕は正気に戻った。

「うん?君ら、どうかした?」

騒ぎを聞き付け、羽久・グラスフィアがこちらを向いた。

しまった。

自分から墓穴を掘ってどうする。

「す、済みません。大丈夫です。続けてください」

「あ、そう…」

…怪しまれたか?

僕としたことが。

「どうした、具合でも悪いのか?」

ユイトが、小声で心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫です。ちょっと…」

えぇと、何か口実を思い付け。

あ、そうだ。

「グラスフィア先生の前だから…緊張して…」

僕は、そう言って誤魔化した。

緊張してる癖にあんな魔法、使えるはずないだろって言われそうだが。

純真無垢なユイト・ランドルフとクラスメイト達は、簡単に騙されてくれた。

「あぁ、そうだよなぁ。グラスフィア先生の授業を受けられるなんて、もっと先のことだと思ってたよ」

「本当。予告なしにいきなりだもんなぁ。俺も緊張したよ」

僕は、彼らの言葉なんて聞いていなかった。

先程の僕の動揺で、羽久・グラスフィアが何かに気づいたかもしれない。

そのことが、何より心配だったからだ。

僕は慌てて、羽久・グラスフィアを見た。

「…」

…大丈夫だ。

どうやら、疑われた様子はない。

ホッと胸を撫で下ろした。

羽久・グラスフィアに疑われれば、そのままシルナ・エインリーに伝わってしまう。

それだけは、避けなければならない。

今は、まだ。
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