神殺しのクロノスタシス2
その日、シルナは三年生の教室のある廊下を歩いていた。

そこで、教室の中から、生徒達のはしゃぐ声を聞いた。

「…?」

こっそりと、廊下から教室の窓を覗くシルナ。

この時点で、不審者。

中を覗くと、数名の女子生徒達が輪になって、何かを見つめていた。

きゃっきゃと笑って、何やら楽しそう。

微笑ましいなぁ、で立ち去れば良いものを。

生徒達が楽しそうにしていると、どうしてもその輪に入りたくなる学院長シルナ。

生徒にとっては、迷惑極まりない存在である。

「ねー、皆」

いてもたってもいられなくなったシルナ。

教室に入って、女子生徒達に声をかけた。

いきなりやって来た学院長に、生徒達はぎょっとした。

そして、覗き込んでいた何かを、さっと隠そうとした。

「が、学院長先生…?」

「ねぇねぇ、今、何見てたの?」

「…」

可哀想な女子生徒達、お互いの顔を見合わせた。

皆、青ざめた顔だったことだろう。

イーニシュフェルト魔導学院の生徒ともあろう者が、占い雑誌を囲んではしゃいでました、なんて。

学院長に知られたら、何と言われるか。

温和な学院長でも、小言の一つくらいは言われるのではないか…。

彼女達は、そう思ったに違いない。

しかし。

「今何見てたの?」

「え、えっと…」

学院長に現場を押さえられては、言い逃れも出来ない。

しらばっくれられないなら、正直に白状するしかない。

「こ、これ…」

観念したように、隠していた雑誌を、シルナの前に出した。

いかにも、年頃の女の子が好きそうな占い雑誌である。

生徒達は、てっきり叱られると思ったに違いない。

何てものを読んでるんだ、こんなものを読む暇があったら、魔導書の一冊でも読みなさい、と。

叱られることを覚悟した生徒達は、シルナの反応を待った。

呆れ声か、あるいは罵声が飛んでくるのかと思ったら。

シルナは喜色満面で、雑誌に手を伸ばした。

「わー!占い!占いだって!面白そう!」

「…」

生徒達、ぽかーん。

「何これ何これ?何で占ってくれるの?星座とか?血液型とか?見ても良い?ね、見ても良い?」

「ど、ど、どうぞ…」

食い気味のシルナに、怖じ気づきながら答える生徒。

「やったー!どれどれ…。ほう!星座だけじゃなくて…あっ、手相!手相まで載ってる!私、一度手相調べてもらいたかったんだよね」

「…」

シルナ、占い雑誌に興味津々。

「面白そ~!良いなぁ、これ読んでみたいな」

このときのシルナは、王立図書館で、新しく入った魔導書をレティシアに貸してもらったときと、同じ顔をしていたことだろう。

子供か。

「ね、ちょっと貸してくれないかなぁ?放課後には返すから!」

そして、要求が厚かましい。

「ど、どうぞ…」

学院長に頼まれれば、嫌でも頷くしかない。

可哀想に。最早脅迫だ。

「ありがとう!大事に読むね!」

シルナは満面笑みで、占い雑誌を抱き締め。

るんるんと、スキップしながら教室を出ていった。

そんな学院長の背中を、女子生徒達は、ぽかーんと眺めていたことだろう。

本当可哀想。

俺がその場にいたら、後頭部に一発かましてやったものを。
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