神殺しのクロノスタシス2
箱にまみれるってどういう状況だよ、って思っただろう?

でも、他に表現のしようがないんだよ。

本当に、箱にまみれてる。

バケツくらいの大きさの箱をいくつもいくつも、自分の周りに置いて。

何やら、その箱を組み立て、カッターで切り込みを入れている。

学院長が工作してる。

…。

あぁ成程、分かった。

「とうとうボケたんだな。大丈夫。老人ホームには入れてやるから」

「ちょっ!ボケてないよ!失礼な!」

「大丈夫大丈夫。いつでも入れるように、目星はつけてあるんだ」

「そんな目星つけないで!入らないから!まだ現役で頑張ります!」

「だったら、それは何をやってるんだよ」

百歩譲って、それが『禁忌の黒魔導書』の捜査に繋がるのなら、俺が悪かったよ。

でも、もしそうでないなら。

「いや、私ね、考えたんだよ」

シルナは、体育座りで俺に向き直った。

何故体育座り?

「イーニシュフェルトって、各階に目安箱、置いてあるでしょ?」

「あ?あぁ…」

目安箱って、ご存知だろうか。

人々の意見を、お上に伝える為の匿名ご意見ボックスみたいなもの。

例えば、シルナが授業中に雑談ばっかして、いい加減うざいなぁと思ったら。

意見書に「学院長の雑談がウザいです」と書いて投書すれば、それが俺やイレースに伝わり。

俺とイレースの二人で、シルナを締め上げ、授業中の雑談癖を改善出来る。

そんな仕組みだ。

イーニシュフェルト魔導学院にも、この目安箱の制度がある。

各階の廊下に、目安箱を設置してある。

学年を問わず、匿名で投書出来るようになっている。

二週間に一回くらいは中身をチェックして、どんな意見が来てるか確認しているが…。

その目安箱が、どうかしたのか?

「全然使われてないと思わない?」

「は…?」

「だってほら、見てよ!」

シルナは、目安箱に投書された意見書を数枚、俺に見せてきた。

「これ、この二ヶ月で目安箱に入ってた意見書」

「はぁ…」

「少なくない!?」

少ないか?

「良いことじゃないか。不満がないってことだろ」

毎週目安箱が溢れ返らんばかりに一杯だったら、そっちの方が大問題だろ。

不満だらけってことじゃん。

その目安箱がスカスカってことは、生徒達に特に現状不満はないんだろう。

少なくとも、俺達に直接意見しなければ我慢ならないほどの不満はない。

良いことだ。

しかし。

シルナは、目安箱に不満の意見書が入ってないことが不満らしく。

「私はね、イーニシュフェルト魔導学院をもっともっと良くしたいの!改善出来ることは全て改善したい!分かる?」

「なら、まず全校集会や授業中の雑談やめたら?」

「きっと皆は、不満がない訳じゃないんだよ。少々のことは『まぁ良いや』で我慢してるんだ」

おい。人の話無視するな。

「まぁ…。全く何一つ不満がない訳じゃないだろうけど…」

何も問題ない。全てに満足しています!って生徒は、少数派だろう。

そんな生徒がもしいるのなら、教師としては嬉しいが…。

多分、そんな生徒、ほとんどいない。

皆、何かしら不満はあるのだ。

些細なことでも。

わざわざ目安箱に書いて投書するほどではないってだけで。

「でしょ?だから私は、そんな小さな不満の一つ一つを知り、そして改善案を見つけたい!」

「…」

「そこで、今後一ヶ月、『目安箱推進月間』を行おうと思うんだ!」

…なぁ。

めちゃくちゃ張り切ってるところ、悪いんだけどさ。

…禁書の捜査は?
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