あの場所へ
Ⅰ.プロローグ
本土の南埠頭から,
高速船に乗って約1時間半。
文庫本を1冊読み終わるか終わらないうちに,
俺はこの島へ帰ってきた。
もう秋の足音が
そこまで聞こえてきている時だった。
俺は,高速船から降り立つと,
あまりの日差しの強さに,
薄手のコートを脱いだ。
「ここは,まだ夏か。」
遠くからセミの鳴き声さえ,
耳に届いてくる。
何年ぶりだろうか。
俺は,
ずっとこの島へ帰ることを避けていた。
この場所に立つと,
心の奥深くにしまいこんだ辛い思い出が
溢れてくるような気がして,
どうしても足を向けることができなかった。
まさに
パンドラの箱を開けるように・・・・
きっと,あいつのことで,
俺の心の中は
いっぱいになってしまうから・・
俺は,高速船の乗り場を後にし,
町のほうへ歩き出した。
アスファルトから照り返してくる
太陽の暑さに顔をしかめながら,
帽子を目深にかぶりなおした。
だいぶここも変わっている。
駐車場も広がり大型客船が寄港できるように
岸壁も整備されていた。
まるで浦島太郎のようだ。
たった数年でここまで変わるのだろうか。
しかし,町に出てみると,
空き店舗や空き地も目立ち,
この数年の景気の悪さが確実に
浸透しているのを感じた。
俺は,予約していたホテルに入り,
一息入れた。
昼間ということもあり,
知り合いに出会うこともなく,
静かな気持ちで
この部屋ですごせることに
ホッとしていた。
そう,明日はあいつの月命日。
俺のいつも隣にいた笑顔は,
突然,5年前に俺の元から
去っていってしまった。
高速船に乗って約1時間半。
文庫本を1冊読み終わるか終わらないうちに,
俺はこの島へ帰ってきた。
もう秋の足音が
そこまで聞こえてきている時だった。
俺は,高速船から降り立つと,
あまりの日差しの強さに,
薄手のコートを脱いだ。
「ここは,まだ夏か。」
遠くからセミの鳴き声さえ,
耳に届いてくる。
何年ぶりだろうか。
俺は,
ずっとこの島へ帰ることを避けていた。
この場所に立つと,
心の奥深くにしまいこんだ辛い思い出が
溢れてくるような気がして,
どうしても足を向けることができなかった。
まさに
パンドラの箱を開けるように・・・・
きっと,あいつのことで,
俺の心の中は
いっぱいになってしまうから・・
俺は,高速船の乗り場を後にし,
町のほうへ歩き出した。
アスファルトから照り返してくる
太陽の暑さに顔をしかめながら,
帽子を目深にかぶりなおした。
だいぶここも変わっている。
駐車場も広がり大型客船が寄港できるように
岸壁も整備されていた。
まるで浦島太郎のようだ。
たった数年でここまで変わるのだろうか。
しかし,町に出てみると,
空き店舗や空き地も目立ち,
この数年の景気の悪さが確実に
浸透しているのを感じた。
俺は,予約していたホテルに入り,
一息入れた。
昼間ということもあり,
知り合いに出会うこともなく,
静かな気持ちで
この部屋ですごせることに
ホッとしていた。
そう,明日はあいつの月命日。
俺のいつも隣にいた笑顔は,
突然,5年前に俺の元から
去っていってしまった。