あの場所へ
Ⅵ.二人の時間
1.青い恋
あの日から,俺は部活が終わると,
そのまま図書室で
七海と過ごす時間が増えていった。
七海は,一度本を読み始めると,
周りが見えなくなるらしい。
俺が目の前の席にすわったことも気づかずに一心不乱に本に集中して,そのまま物語の中に入っていってしまうような感じだった。
時々,口元が緩んだり,
涙が目から溢れて,
頬に綺麗な一筋を流していたりする
七海の表情を覗き込むのが好きだった。
俺はそんな七海の前で,
腕をくんで机にうつぶすと,
そのまま眠りに入っていった。
「そろそろ閉めるよ。」
という司書の先生の声で,
はっとしたように七海は顔をあげると
俺を見つけてばつの悪そうな様子で
「ごめん。まだ気づかなかった。」
とつぶやくのだ。
「もう,慣れた。」俺は言うと,
七海の鞄をもって図書室から出て行く。
七海は慌てて俺を追いかけてきて,
数歩後ろからついてくる。
決して,並んであることとしない。
一度そのことを聞いたことがあった。
「だって,上妻くんってすごい女子の中で,人気があるんだよ。一応,私だって,そんな女の子に怨まれたくないし・・・」
そう,うつむきながら答えた。
「気にすんな。俺がお前を好きになったんだから。」
俺はそういうと,七海の髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやった。
なんにもないこの島では,ただ二人並んで歩いて会話したり,海岸線で海をながめたりするのが,唯一できるデートらしいものだった。
俺と七海は,学校帰りにお気に入りの場所に行って,夕日に染まる東シナ海を眺めながら,授業中のことや友達のことを話をして,あっという間の時間を過ごした。
平日毎日会っていても,話が尽きることはなかった。
ただ同じ時間を同じ場所で
共有していることだけで
十分な青い恋だった。