あの場所へ
2.七海へ
二週間の合宿は圧倒的だった。
ハイレベルな選手たちの中で,
切磋琢磨していく感覚に,
俺は持ち前の負けん気だけで
ついていけたような気がした。
「ほら,大学駅伝に実業団に末は,オリンピック選手よ。」
と,馬鹿真面目な顔で話をしていた七海が,俺をずっと励ましていた。
「あーーー」
突然,大声を張り上げた俺に,
周りにいた奴らが,一斉に振り向いた。
「おい,上妻。とうとう切れたか?」
横にいた一人が声をかけた。
「いいや。違うよ。気合気合!!」
そういうと,俺はトラックを走り始めた。
会いたいな・・・七海・・・
そう,
空を見上げて,俺はつぶやいた。
七海からもらった本は,
ほとんど開けないまま
合宿最終日を迎えた俺は,
東京都内の大学の陸上部のコーチから声をかけられた。
人生の中で,こんなにいろんなことが順調にいってることなんて,今まであっただろうかと,自分自身,半信半疑だった。
そういえば,
七海と出会ってから,
いいことばかり続いている。
絶対,七海は俺の天使だ!
七海が俺を見て微笑んでいた。
その頃の俺は,
きっと,
世の中にある幸せを掴んだ気になっていたんだ。
今なら,そう思えた。
俺は眼を開けた。
満天の空に,たくさんの星が瞬いていた。
七海がそこにいるように。