あの場所へ
2.携帯電話
合宿もどった俺は,七海に会いに家に向かったが留守だった。
「だから,携帯持とっけと言ったのに。」
俺は,ブツブツ言いながら,学校の図書室へ足を進めた。
そう,七海が高校生のほとんどが持っているのが当たり前になっても携帯を持たなかった。
「だって,めんどくさいじゃない。メールの交換とか裏掲示板とか,そんなのに気を使うのが,時間の無駄のような気がして・・・上妻くんとは,図書室で会えるし,用事があれば家にかけてきてくれていいし・・・」
七海の理由には妙な説得力があって,俺はそれ以上何も言えなかった。
合宿で二週間も会えなかった俺は,今すぐ会いたかった。
こんなときに携帯があれば,すぐ七海を捕まえられるのに・・・
学校の図書室にも姿がみえなかった。
受付にいた司書の先生に
七海のことを聞いたが,
「しばらく見てない。」
という素っ気無い返事が返ってきた。
「ちっ」
俺は軽く舌打ちすると,
図書館へ向かって,
坂道を走りおりた。
いい加減,
俺の目の前に現れてくれよ。
七海。
早く会って,
話したいことがたくさんあるんだよ。
俺は,少しイライラした気持ちを抑えながら,足を進めた。
しかし,そこも七海の姿はなかった。
豊山にも行ってみたが,いなかった。
「七海,どこにいるんだよ。」
俺は,豊山から,海に向かって叫んだ。
だけど,何の答えも返ってこなかった。ただ俺の胸は不安と怒りでいっぱいになった。
しょうがなく,家に戻ろうとしたとき,
「あっ,店に行けばいいんだ。」
と,考えが浮かんだ。そのまま七海の母親がやっている小さなバーへ向かった。
そこで俺は打ちのめされた。
「しばらく,お休みします。」の張り紙が,風に吹かれてゆらゆらとはためいていたからだ。
俺は,どっと疲れを感じ,重い足取りで家に戻った。
それから,冬休みが終わる直前まで,俺は七海に会うことが出来なかった。
その時になって初めて,七海には仲のいい友達がいないことに気づいた。
七海のことを誰に聞いても,「さあー?」との返事しか返ってこなかったからだ。