あの場所へ
3.七海の日記
「なんですか。これ」
俺は彼女を見た。
「あなたが,もしこの島に帰ってこれる日がきたら,渡そうと思っていたの。私のわがままで,七海の病気のこと黙ってて,あなたを騙していたことをいつになったら謝れるかなって,いつも思っていたのよ。本当にごめんなさいね。これは,七海がつけていた日記よ。お棺の中に入れられなかったの。あなたのことばかり書いてあるわ。あなたに持っていて欲しくて。」
俺は,ノートをぺらぺらとめくった。
最後に1通,手紙がはさんであった。
宛名は俺宛だった。
手紙を手にすると,
「あの,これは・・」と聞いた。
「あなた宛の手紙の封を開けるわけには,いかなかったのよ。ゆっくりと呼んで頂戴。最後のラブレターかしらね。」
香里さんは,席をたつと,カウンターの中にはいって,いくつかのおつまみを並べた。
そして,奥の部屋に入っていった。
俺は,ノートをめくった。
4月17日 また彼がグランドを走っている。気持ちよさそうに。羨ましい。私も走ってみたい。
5月25日 彼の名前を知った。「上妻直樹」くん。これからは,上妻くんって日記にも書けるのね。
8月27日 図書館の学習室で,はじめて話したわ。宿題を手伝ったの。私も思ったより大胆ね。
9月10日 体育祭。お母さんに黙って,リレーの選手で走ってしまった。帰ってきてから怒られたけど。上妻くんと久しぶりに話できた。
12月14日 私の本当の病気は,白血病なの。ってお母さんに聞いた。お母さんは,この日を待っていてように話をしてくれた。上妻くん,どうしたらいい。