あの場所へ
奏子の日記は,
本当に俺のことばかりだった。
合宿に出発した日のこと,
黙って入院した日のことなど,
たった数行の日記の中に,

懸命に生きようとしていた七海が
そこにいた。

入院中は何も書かれておらず,
ふたたび始まったのは,8月20日
島に戻ってきた日からだった。

自分の病気が完治して,島に戻ってこれて,普通の学校生活を送れて嬉しいことが日記の文面に溢れていた。


しかし,
その数ヶ月後の日記には
衝撃的な言葉が綴られていた。


 11月20日 私って末期がんみたい。病院の定期健診に行ったときに立ち聞きしてしまった。どうして,白血病治ったばかりなのに。私,あとどれくらい生きられるの?お母さんや上妻くんに,聞くこともできない。



それが,最後の日記だった。


この日から,
七海はどんな気持ちで
毎日を過ごしていたのだろうか。

俺の前では涙もみせず,
笑顔だけだった。
いつも一人で泣いていたのだろうか。

俺は七海の気持ちを慮ると苦しくなり,
目の前のグラスを飲み干した。



そして,
ノートの一番最後のページまでめくった時,七海の文字が目に入った。

自分にいつ死期が来てもいいように,
母親への感謝が綴ってあった。



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