あの場所へ
4.心の整理
俺は,
ノートをその場に置いたまま
店をでた。
香里さんは奥の部屋から出てこなかった。
外に出ると東の空が白々とし始めていた。
途中にあるコンビニで,コーヒーとパンを買うと,ホテルに戻った。そして荷物をまとめると,ホテルをチェックアウトして七海の眠る場所へ向かった。
東シナ海を望める高台にある霊園は,
七海が大好きだといった
あの二人の秘密の場所から見える景色と似ていた。
七海はここにずっといる・・・
七海は図書館で倒れてから10日後,
一度も意識を戻すことなく旅立った。
世間はクリスマスで浮かれている日だった。
まるで,神に連れ去られるように,
俺の前から永遠にいなくなってしまった。
信じたくなかった。
だから,
葬式も中に入れなかったし,
火葬場にもいけなかった。
その日から,
俺は馬鹿みたいに走り続けた。
七海が言っていたように,
大学駅伝にでて社会人チームにも入り,今はマラソンに転向してオリンピック代表に選らばれるように毎日走っている。
そうしたら,
きっと七海のいる天国からも
俺の姿がわかるだろう。
それだけのために,
がむしゃらに生きてきた。
そして,5年もたってしまった。
この島に帰ってくるまで。
心の整理がつくまで,
こんなにも長い月日が流れてしまった。
俺は七海の前に立つと,
最後の手紙の封を切った。