あの場所へ
Ⅲ.体育祭
1.名前
どのくらい眠ってしまったのだろうか。
俺は,少し肌寒さを感じて,目が覚めた。
昼間は汗が噴出すほどの暑さだったのに…
と思いつつ,
薄手のコートを羽織ると,部屋を出た。
もうとっくに陽が馬毛島の向こう側に消えて,
街にも夜の帳が落ちる頃,
俺は一人,豊山を上っていた。
あの夏休みの3日間終わった後も,
俺と七海の関係は別段何も変わらなかった。
お互いを意識することもなく,
そのまま同じ学校に通っている同級生であり,
学校ですれ違っても挨拶をすることもなかった。
ただ俺の中に,
「門倉 七海」
という名前が刻まれただけだった。
学校では二学期に入って
すぐに体育祭が行われた。
勉強は苦手な俺でも,
スポーツだけは別だった。
これこそ,俺の青春!!
唯一,スポットライトが
俺に当たるときだった。
高校の体育祭は学年対抗だ。
毎年,3年生を優勝させないと,
その後の大学入試への影響があるといい,
先生側はあの手この手で
3年生を優勝させようと
画策を謀っていたが,
今年こそは
2年生が優勝をかっさらってやると,
変な対抗心を俺は持っていた。
点数は接戦で,
最後の学年対抗リレーの結果で,
優勝が決まることになり,
グランドの中は応援団を中心に盛り上がり,
選手の緊張感が最高潮に達している
その時だった。