一ノ瀬さん家の家庭事情。LAST season
memory:35
「あと何分?」

「あと20分後の電車かな。」

隣に並んで座ってるこの瞬間も、1分1秒だって長く続いて欲しい。

時間なんて、止まっちゃえばいい。

だけど残酷に、確実に時計の針は進んでいく。

伝えたいこと、ちゃんと全部伝えないと。

「手、繋いでもいい?」

「うん!」

いつだってこの手をすぐに求めちゃいそうで、弱くなっちゃいそうで。

大好きな浅丘君と、明日から遠距離恋愛。

「ありがとう、愛。見送ってくれて。」

「ううん、恵海ちゃんたちは良かったの?」

「恵海は泣き疲れて寝ちゃってた。父さんたちも一生の別れじゃないからって案外ドライなもんだよ。」

そうだよね。

一生会えないわけじゃないし、会いに行こうと思えば会いに行ける距離なんだから。

何回そうやって思って、やっぱり寂しい、離れたくないってこんな堂々巡り。

「愛?」

だめだ、優しい声が、握られた手が、足元のスーツケースが。

あたしの涙腺、弱すぎる…

「…っ、…ごめんね…」
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