恋愛最前線
「社長、どちらへ向かいますか?」

車内のスピーカーから矢島が話す。

「ご自宅でよろしいかな?」

隣の先客は 智身にそう言う。

智身は 頷く。

「彼女の自宅までだ」

「かしこまりました」

スピーカーが切れる。
「岩倉、智身さんですね。私は、惣市の父親です」

「はい、わかっています。私に、何のお話でしょうか?」

彼は、智身に対して 対面的には 紳士的だったが、上から目線の態度は、彼女には敏感に感じた。

「うちの馬鹿が、最近あなたに世話になっているようで…帰宅してないようですね」


彼もまた、封筒を渡す。
中身はきっと お金だろう…

先日の、宏次朗の封筒とは 厚みが違う…。

「何ですか?」

「生活費と迷惑料です。納めて下さい」

智身は、
「いただけません」

彼は、
「あの馬鹿を、あれ以上最低にするわけにはいかんのですよ…」

智身は…
宏次朗が封筒を渡した時もそうだったが。

金で 全てが 解決すると勘違いしている 人種に 自分の価値観など 無意味だと思ったが…


「こうやって、彼を最低にしてるのは、お父様なんじゃないですか?」

彼は、智身を少しいぶかしげに見ると

「人の家庭のことに口を出してもらいたくないですな…」

「あれが…家庭と呼べますか?」

「私は忙しい。宏次朗にもそうだ。もちろん惣市にも…。自分の手がかけられない変わりのことは余る程にしている」

「…そんなことが、欲しいんでしょうか?惣市君のしたいこと、好きな事、好きなもの…知ってますかっ?」


彼は、言葉を失った…。
車は、彼女のマンションにつく。


「少し調べさせてもらったが、君は学業優秀なようだね。うちの馬鹿なんぞに時間を裂いている時間なんかないんじゃないですか?来年には、就職だ…」

「なにがおっしゃりたいんですか?」

「この封筒の中身で足りないと言うなら、こちらにお好きな額を書いて下さい」

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