恋愛最前線
「全部は知らない」

道弘は、 全部だろうが少しだろうが…

何も変わらない。…

自分が泰造にした行為は、かわらないと言った。

「私の、全てエゴだとわかっているよ。ただ…不幸になるのをわかっていて、その道を歩かせるわけには、親としては…いかなくてね…」

「お気持ちは、わかります…」

「しかも、こんなに美しい優秀な方だ。これじゃ役不足もいいところだ…」

道弘は、この後に及び、2人を引き裂こうとしているのか…

智身にも、ましてや 惣市には、道弘の話の糸口がわからない…

隣を見ると、惣市の左手はタバコのケースごと握り締めている。

智身は… その上から、彼の手を握る。

惣市がチラッと智身の顔を見る。

彼女の目は

「相手の話を最後まで聞くこと」

と語っていた。

惣市は 深く深呼吸した。

智身は、軽く頷くと、握り締めた手に力を入れて 合図をした。


「…あれから、矢島にしばらくお前の行動を見ていて貰った…よく頑張っていたと思うよ…。あの月はカードも使ってないようだったな…。学校もサボらない…」


智身は… どんだけよ…と… 彼を眺めてしまうけど。


「…なぜ出来るのにしない。私は、宏次朗だけに期待しているわけではない…」


「俺の文句を言うための食事会かよ…」

惣市は、テーブルをガツンと叩く。


部屋に怒鳴り声が響く。
「最後まで話を聞きなさい!」

道弘ではなく、

智身だった。


道弘は少し驚いた様子だったが、 話を続けた…

「私は、何もないところから、ここまで上り詰めた。楽じゃなかった。泰造の家は地元では有数の名士で、岩倉の家は何代も続く老舗旅館…芳江の家も家業を営む家柄だった」

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