国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
『聖女様、本当に僕の病気を消してくれたのですか? 神様みたい……』
『本当に本当にありがとうございます、聖女様。この必ずお返しします。いずれ必ず……!』

小さい男の子と優しそうな母親。もう姿はあまり覚えていないけれど、心から感謝してくれたことが嬉しくて、時折思い出すのだ。

何十年かに一度、そんな人々が現れる。
それが聖女時代のニーナの心の支えだった。



夕食が終わると、二人で並んで皿を洗うことになった。ニーナが片づけをしようとしたのだが、フェルディナンドが譲らなかったのだ。

「楽しい食事会だったのに、途中からつまらないお話をさせちゃったね。ごめん」
「そんな……フェルといっぱい話せて楽しかったわ!」

フェルディナンドが落ち込んでいるように見えたため、ニーナは力強く首を横に振った。
その勢いでフェルディナンドと肩が触れ合う。

「あっ、ごめんなさい」
「ん? 何が?」
「えと、何でもないわ!」

(憂い顔の美青年は目に毒よ)

水にぬれた手は冷たいのに、触れた部分は熱を帯びていた。

そんなニーナをフェルディナンドが熱心な表情で見つめる。

「ねえニーナ」
「な、なあに?」
「食材ならいくらでも用意する。だから、また時々夕飯をお願いしても良いかな? すごく美味しかったから、また食べたくて」

ニーナが「本当?」と目を丸くすると、フェルディナンドは微笑みながら頷いた。

「お願いできるかい?」
「もちろんよ! むしろ今まで作ってくれてたのだから、しばらくは私が作るやるわ!」
「それは悪いよ。明日は僕が」
「いえ、私が」
「……ふっ、はは」
「……ふふっ」

ニーナとフェルディナンドは笑い合いながら皿洗いをこなしていった。

結局、食事は交代で作ることに決まったのだった。 


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