国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
そんな二人きりの静かな生活だが、来客も少なくなかった。

大賢者の知恵を拝借しようと様々な人が塔を訪ねて来るのだ。

『お助けください大賢者様!』

という声に叩き起こされることも珍しくない。
ニーナが対応することもあったが、大抵はフェルディナンドが対応した。

多くの人々は『大賢者様』に話を聞いてもらいたいのだ。

ただ、フェルディナンドは簡単には相談に乗らなかった。

『ここには無数の書物がある。好きに読んでいいから自分で調べろ』

必ずそう言って、塔を案内した。

勿論、調べた上で何かを問えば答えてくれる。
ただ、最初から答えを与えたりはしないのだった。

『大賢者様は、とっても聡明ですが……少し怖いですよね』

訪ねて来た人がそう零したこともある。
ニーナは誤解だと否定しようとしたけれど、寸前で留まった。

(フェルはわざと冷徹に振舞っているのかも)

と考えたからだ。

大賢者は、皇帝の過ちを指摘できる唯一の存在と言われている。
そのような人物が民に親しまれていると、上級貴族達がそれを利用する可能性がある。

変に担ぎ上げられないよう、民と距離をとっているのかもしれないと思ったのだ。


以前それをフェルディナンドに話したところ、

『ニーナは面白いことを考えるね。そういうことにしておいて。まるで僕が善人になったみたいで気分がいい』

と微笑まれてしまった。

相変わらず謎も多いフェルディナンドだったが、ニーナは国のために働く彼のことを家族のように慕うようになっていった。



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