国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
「この水晶も直していただけませんか? 祖母の形見なんです。この水晶が私を守ってくれたんですっ!」
「えーっと……直してあげたいけれど、物は直したことがないから」
「やってみるだけで良いんです! 聖女様の力を注いでみてくれませんか?」

聖女に出来るのは、浄化と治癒と結界のみ。物の修繕はやったこともない。
けれど今にも泣きそうな表情で訴える少女が哀れで、断ることが出来なかった。

「……分かったわ」

ニーナは水晶を手に取り、治癒と同じ要領で力を注ぐ。

(あれっ? この水晶……何かおかしいわ)

少し力を流した瞬間、ニーナは異変に気がついた。だが、止められない。一度流れ出した力は、どんどんと水晶に吸い込まれていく。

(やばいっ……)

聖女の力がつきて倒れるその直前、目の前の少女は嬉しそうに笑っていた。

「おやすみなさい聖女様。うふふっ、明日はきっと素敵な日になるわ」

意識が朦朧とする中、彼女の笑い声が耳に残っていた。翌日、ニーナは自室で目を覚ました。

(昨日の……何だったのかしら? あの子は無事?)

心配をしていたが、昨夜の少女は元気になって帰ったと聞かされた。

(きっと慣れないことをして力を使い過ぎたのね。今日は感謝祭だし、気をつけないと)

気を失う寸前に聞こえた声は幻聴。そう思っていたのに――


◇◇◇


< 5 / 175 >

この作品をシェア

pagetop