国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
5.湧き水の異変
マーティスは突然の訪問以来、ちょくちょく塔にやって来るようになった。

「やっほー。今日はダム関連の本を借りに来たよー」

名目上は資料探しだが、フェルディナンドと話すのが目的だろう。

「お久しぶりです、殿下。事前にご連絡いただけたので、ダムや水、土地に関する書物を集めておきましたよ」
「ニーナちゃんは仕事が早くて助かるよ」
「フェル……ディナンド様は出かけていますが、もうすぐお戻りになるかと」

ニーナが時計を見ながら告げると、マーティスは可笑しそうに笑った。

「そんな畏まらないで。弟のことは、いつもみたいにフェルって呼んでいいよ。俺のことだって名前で呼んでいいし」
「流石にそれは出来かねます」
「えぇー残念。でも、ここは君たちのホームなんだからリラックスしてよ。今の俺は皇太子じゃなくて、フェルディナンドの兄だし」

マーティスは微笑んでいたが、どこか寂し気な雰囲気を漂わせている。
その横顔が昔の自分に似ている気がした。

ニーナは資料の山にポンと手を置くといたずらっぽく微笑んだ。

「……分かりました、マーティス様。フェルが来るまで資料の確認をしましょう!」
「……! ははっ、うん。そうだね、そうしようか」

マーティスは実に嬉しそうに笑うと、資料を手に取った。



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