国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
マーティスとともに資料を確認しながら、紙にまとめ直していく。

地道な作業だが、色々な知識が繋がっていくのが面白い。
ニーナはあっという間に夢中になった。

マーティスは少し飽きてきたようで、手を止めてニーナに話しかけてきた。

「フェルディナンドって気難しいでしょ? ニーナちゃん苦労してない?」
「いえ、いつも優しくしてもらってます。申し訳ないくらいに」
「そうなんだ! フェルディナンドとうまく話せる人ってすごーく貴重なんだよ。やっぱり二人は波長が合うんだなー」

マーティスはしみじみと頷いた。「良かったなぁ」と呟くマーティスは、弟が大切でたまらない様子だ。

(兄弟仲が良いのね。こんなに素敵なお兄様がいるのに、どうしてフェルは皇子という立場を捨ててしまったのかしら?)

ニーナが首を傾げていると、マーティスが何か楽しいことを思いついたようにニヤリと笑った。

「ニーナちゃんって、長い間聖女だったでしょ? 昔のことって覚えてるの?」
「え? うーん……役に立ちそうなことは覚えていますが、日常的なことは忘れてしまうことも多いです。代わり映えのない日々でしたし」

そうは言ったものの、ニーナはわざと日常の出来事を思い出さないようにしていた。
200年分の記憶は重たかったし、思い出すと長く生きることが嫌になってしまうから。

「ふーん、そっか。……だってさ、フェルディナンド」
「え?」

マーティスの言葉に後ろを振り向くと、そこにはフェルディナンドが立っていた。



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