国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
「フェル! おかえりなさい」
「ただいま。何の話をしていたの? 覚えてるとか忘れているとかって」
「ニーナちゃんがどれくらい昔のことを覚えてるかって話だよ」

マーティスの言葉にフェルディナンドの眉がピクリと動く。

「……ニーナは昔のことを、これまで治癒した方々を、覚えているの?」
「え? そうね、最近治癒した方達は少し。でもすぐに忘れてしまうの。無理に思い出すつもりもないわ。ふとした時に思い出すことはあるけれど……」

ニーナの言葉にフェルディナンドは黙り込んでしまった。

「フェル?」

フェルディナンドは何かを言いたげな表情をしていたが、口を開くことはなかった。



沈黙が続いたところで、マーティスが手をパンパンと叩く。

「まあまあ。ニーナちゃんの人生はこれからなんだし、ここから思い出を作っていけば良いんだよ。ね?」
「言われてみれば、確かにそうですね」

マーティスに明るく言われると、本当にそんな気がしてくる。

(そっか、これからは思い出を大切にしても良いんだわ)


フェルディナンドをチラリと見ると、いつもの表情に戻っていた。

なんだったのだろうと首を傾げると、マーティスが何やらフェルディナンドを小突いていた。

「重く考えずぎじゃない?」
「放っておいてください。僕は配慮の出来る人間なんです」
「あー、その言い方! まるで俺が配慮ないみたいじゃない?」
「おや、よく分かりましたね」

なんてヒソヒソ言い合っている。本当に仲睦まじい。



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