国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
地図が指し示していた場所は近くの森の入口だった。

入口付近には水汲み場があり、ちょろちょろと絶え間なく水が流れている。

「ここだわ。見たところ、普通の湧き水のようだけど」

ニーナは水にそっと触れた。
手に集中すると、ほんの微かにピリピリとした感覚があった。

(感覚を研ぎ澄ませないと分からないほど微かな痺れね)

「フェル、この水、確かに触れるとほんの少しだけピリピリ痺れるような感覚があるわ」
「無闇に触っては駄目だよ」
「大丈夫よ。パン屋のおじ様も飲んだって言っていたでしょう?」

ニーナはそう言って両手で水をすくう。そして口に近づけた。

「ニーナ? ちょっと! 飲んでは駄目だって! せめて煮沸してっ……はぁ、貴女はまったく……」

フェルディナンドの制止とニーナが水を飲み込むのは、ほぼ同時だった。

フェルディナンドは呆れたようなため息をつく。

「ニーナ、貴女はもう聖女ではないんだよ? 忘れたの? 危険な事をしないで」

フェルディナンドは恐ろしい顔をしていた。

「ご、ごめんなさい……」
「もし毒だったら水質調査どころではなくなるよ? そうしたら美味しいパンはお預けだね」
「それはっ……困るわ。パンが食べたくて調べているのに」

ニーナは俯きながらチラリとフェルディナンドの表情をうかがった。
相変わらず顔が怖い。



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