国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
6.不穏な気配
ルティシア国の王子、アレクサンドロスはどうしようもないほど苛立っていた。

「殿下、聖女様についてですが……どうにか少しだけでも力をお使いいただくことは出来ませんか?」
「国境の瘴気が濃くなりすぎて、もう限界です!」
「怪我人や病人が溢れています……どうか!」

国中から様々な職業の民達が、嘆願書を手に城を訪れるからだ。
広間に溢れかえっている人々は、まるで蟻のようだ。

アレクサンドロスはなんとか顔に笑みを貼り付ける。

「皆の気持ちは確かに受け取った。俺からマリアに必ず伝えよう。聖女は必ず皆を救うだろう!」

アレクサンドロスの言葉に、人々はほんの少しの安堵を滲ませる。

「さすが次期国王だ!」
「アレクサンドロス殿下は、必ず我が国をお守りくださる」
「殿下万歳! 聖女様と共に我らをお救いください!」

(調子のいい奴らだ。雰囲気次第ですぐに意見を変える下等な者どもめ)

「大聖堂に向かい、聖女マリアに祈りを捧げろ。皆の気持ちがマリアを動かすはずだ」

適当なことを言って民を下がらせると、アレクサンドロスは早足で自室に戻った。


「クソッ! 聖女交代のせいで、この国は滅茶苦茶だ! 一体いつまで『療養』とやらは続くんだ!? お父様はこの件について取り合ってくれないし」

頭をかきむしりながら、机に拳を振り下ろしす。
ここ数週間でアレクサンドロスのもとに送られてきた嘆願書の束が、バサバサと音を立てて机から落ちていった。

「俺の計画が無茶苦茶だ……!」

アレクサンドロスは窓から見える大聖堂を眺めながら恨めしそうに呟いた。




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