もう一度あなたと
そう呟いて、少しずつ明るくなってきた空を見上げた。
テーブルの上にはメモが一枚。
【そのまま戻って大丈夫だから。彩華、いい子でいろよ】
「またそれ?」
いつしか預かったメモと同じ言葉で締めくくられたその紙に、私は泣き笑いを浮かべた。
いい子でいろよ、そういうのならいつまででも待とうじゃない。
そんな気すらして、私は涙を拭うと、こっそり自分の家へと戻った。
それから程なくして、私は瑠香を妊娠していることに気づいた。
あの時の日向との子。それはわかっていたが、私はそのことを両親にも誰にも絶対に話さなかった。

日向の居場所を知ろうと思えばできたと思う。でも、私はそれをしなかった。
彼にとって、私と一緒にいられないことがすべてだと思った。自分から誘って妊娠をして出産をした。

ただそれだけだ。

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