もう一度あなたと
都内の閑静な住宅街の一角。豪邸が立ち並ぶ中に、一軒のこじんまりとした家があった。
小さな庭と赤い屋根が印象的なこの家は、四月の初旬、桜が咲き乱れる中で慌ただしかった。
「瑠香、待って! 今日から保育園だから!」
私のその声に、一歳三か月の娘はさらに廊下を走るスピードを上げた。追いかける私と遊んでいるつもりなのだろうが、こっちは必死だ。
「ねえ、お母さん! 瑠香を止めて!」
ようやく転ぶことなく小さな段差を超えられるようになった瑠香は、毎日元気いっぱいだ。
「ほーら、捕まえた」
私の母、静江にすっぽりと抱っこされた瑠香は、楽しそうにキャキャと声を上げる。
「彩華、今日十二時にお迎えでいいのよね?」
専業主婦の母が心配そうに私に声をかける姿に、少し苦笑する。
「うん、ごめんね。お願い。今日は慣らし保育だから早いの」
「本当に私はいいのよ。瑠香を保育園に入れなくても。ねー、瑠香」
その母の優しさはとても嬉しい。しかし、母にだって予定が入ることもあるだろうし、持病もある。あまり無理をさせたくないのが実情だ。
「早めに迎えに行ってくれるだけで助かるから」
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