もう一度あなたと
 視線を怖くてあげることができなかった私だったが、神代さんの声でもうここに日向がいないことを知る。
「あの若さでこの大企業の副社長だよ、緊張もするでしょ」
 加奈先輩もため息ともつかない息を吐いた。
「でも、ここだけの話」
 そう言うと、加奈先輩が小声になる。

「副社長って、訳アリなんでしょ?」
「え?」
 つい、訳アリという言葉に私は反応していた。
「社長と小さいころから別に住んでたって。お兄さんが亡くなった時呼び戻されたとかなんとか」
「俺もそれは聞いたことあるな。母親が違ったとかだろ?」
 そこまで聞いてようやく、どうして日向の名字が違い、隣の家に住んでいたか。きっと何か複雑な理由があったからだろう。そして、後継者がいなくなり、呼び戻され、そう考えるのが自然なのかもしれない。
「そうそう、だけどあの実績を見れば、今は誰も何も言えないわよね」
 一瞬無言の時間が流れて、それを壊すように神代さんが声を上げる。
「そんなことはどうでもいい。早く準備しよう」
 そう言うと、私たちは仕事に戻った。
< 24 / 80 >

この作品をシェア

pagetop