もう一度あなたと
 静かに本当に心配をしているような声に、私は日向に知られないように息を整えるとそちらを振り返った。

「もう終わります」
「じゃあ、送っていくよ。急ぐんだろ?」
 その意外な言葉に驚いて私は目を見開く。どういうつもりで送っていくなどと言っているのだろう。さっきの会話で子供がいることは気づいたはずだ。普通に考えれば既婚者を送っていくなど普通ではない。もしかして、結婚をしていないこと、シングルマザーだということを誰かから聞いたのだろうか。
「大丈夫です」
 それだけを答えると、少し大きな音を立ててノートパソコンを閉じると、日向を見ることなく立ち上がった。目を合わさず会議室のドアの前にいた日向の横を通り過ぎようとした時だった。後ろからいきなり腕を取られ、反射的に私は振り返った。そこにはあの夜、抱き合った時のままの日向の瞳があり息を飲む。
「いい子に待ってろって言ったのに」
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