もう一度あなたと
 その言葉に苛立ちが募る。確かにあの日は私から誘ったし、日向からすれば仕方なくかもしれない。でも、何度もこうして『いい子にしてろよ』そんな思わせ振りな態度を取るから私はずっと諦められないのだ。でも、さすがに愛しさよりも憎しみが沸き上がる。自分はいつも何も言わずに姿を消して、フラッと目の前に現れて心を乱す。そして、今は婚約者を作り副社長などというたいそうな身分で戻ってきた。

「ふざけないで」
「え」
 呟くようにそう口から言葉が漏れていた。聞こえなかったのか日向が聞き返す。俯いていた私だったが、初めて日向にこんな憎しみを向けて睨みつけた気がする。
「いつも勝手にいなくなるのに、どうしてこんなことを言うの? 私ももう大切な人と歩き始めたんだから、振り回さないで!」
その言葉に嘘はない。大切な私の娘がいるのだ。今更こんな気持ちに振り回されるのはもう終わりだ。あの頃みたいに小さな女の子ではない。今は母親として瑠香を守って生きて行かなければいけないのだ。日向の気まぐれに付き合ってなどいられない。初めて私にこんな言い方をされた日向は、今までにみたことがない表情で何を考えているのかわからない。
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