もう一度あなたと
 加奈先輩のその言葉に、日向の顔が見れない。一歳半だと瑠香の父親が自分かもしれないと思ってしまうかもしれない。それに、厳密には瑠香はまだ一歳半にはなっていない。
「まだそんなになりませんよ」
 嘘は伝えていないし、日向と関係を持った後、すぐに他の人と関係を持ったと思われただろうがそれも仕方がない。もしかしてと思われるぐらいなら、それから旦那さんを見つけたそう思われた方がよっぽどマシだ。これ以上、深堀されたくないと思っていると、バッグの中からスマホが音を立てる。
「すみません」
 立ち上がりスマホを手にして、窓際へと移動する。画面を見れば母からで、まさか瑠香に何かあったのではと慌ててスマホをタッチする。
「もしもし? どうかした?」
 一瞬で酔いもさめた気がして、早口で問いかければ電話の向こうの母も、慌てた口調で答える。
「瑠香が階段から落ちて足を痛めたみたいで今救急に来たから。目を離してごめんね」
 今にも泣きそうな母に、私はなんとか努めて冷静に言うも、心臓がバクバクうるさい。
「どこの病院? 外科の救急見つかった?」
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