もう一度あなたと
「母の話では階段から落ちたって……。どうしよう瑠香」
 もしかして頭など打っていないだろうか。怪我と言ってもこの目で見るまで安心などできない。エレベーターを降りれば、そこには黒塗りの高級車が止まっていて、運転手がすでに後部座席を開けて待機していた。
「え? あの」
「彩華、いいから乗れ。タクシーより早い」
 日向の言葉に、何も考えられなかった私は言われるがままに乗り込んだ。彼も一緒に乗り込むと、運転手に行き先を伝える。

「S病院は外科の専門医はいないな……」
 呟きながら日向はどこかにスマホで電話をしているようだったが、私は瑠香が心配で仕方がない。数十分で病院へ着くと、車から飛び降りて救急入口から中へと入る。
「あの、東雲瑠香の母ですが、娘は?」
「今、診察中です。一番診察室です。どうぞ」
 受付の女性の声に私は、小走りで一番と書かれた部屋のドアを開ける。
「彩華! ごめんね、私たちがついていたのに」
 涙目の母に、私は首を振って見せる。
「お母さんのせいじゃないよ。私が帰らなかったから」
 泣き疲れたのか、瑠香はベッドの上に横になっていて、急いでそのそばに駆け寄る。
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