もう一度あなたと
 あっさりと否定され、私はキュッと唇を噛む。何を聞かれるのかわからないが逃げられるような雰囲気ではないことはわかる。無言で瑠香の病室へと入ると、小さな子供用のベッドに眠る瑠香を見つめる。そのあと、日向がドアを閉めたことが分かった。
「シングルってどういうことだ? 離婚したのか?」
 離婚という単語に、私は自嘲気味な笑みが浮かびそうになる。結婚もしていないのに、離婚などできるわけがない。
「してないよ」
 離婚はしてない、そう伝えれば日向が気配を横に感じる。
「どういうことだ? 瑠香ちゃんの父親はどうした? 逃げたのか?」
 まさか少しも自分の子供だと思っていないことに、笑えて来てしまう。
「逃げたの」
 あなたがね。そう伝えた瞬間、日向が地を這うような声音で「許せない」と呟いた。
「え?」
 日向のそのセリフに私は反射的に隣の彼を見上げた。二十センチは高い身長の彼の瞳は、怒りに満ちていてさらに驚いてしまう。
「どこのどいつだ。抹殺してやる」
「ちょっと! 日向! どうして日向が怒るのよ!」
 そう声を上げれば、いきなり日向は私を抱きしめた。
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