もう一度あなたと
すっかりうちの両親も昔のように日向をかわいがり、瑠香もべったりだ。
「おはよう、東雲」
「おはようございます、神代さん」
いつも通り笑顔で答えたつもりだったが、ジッと彼が私の顔を見つめる。
「なあ、東雲。何か変わったことあったか?」
就業前でそんなに人がいないフロアで、神代さんは私の隣の椅子に座る。
「え?」
「なんていうか、前より落ち着いた?」
今までとは何も変わっていない生活のつもりだが、同じ家に日向がいることで私の中で何かが変わったのかもしれない。両親ももちろんいてくれたが、日向と三人で話をしたり遊んだりすることはやはり楽しい。
「そうですかね?」
しかしこんなことを神代さんに伝えられるわけもなく、私は言葉を濁す。
「こないだの打ち上げの時、副社長と親密そうだったけど……」
あの日のことを面と向かって聞く人がいなかったため、特に自分から何かをいうことはなかったが、少し噂になっていることも気づいていた。
だから、もしも聞かれたらこう答えようと用紙していた言葉を口にする。
「小さい頃の知り合いなんです。昔、家が隣で」
嘘はついていない。これは真実だ。
「そうなのか?」
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