もう一度あなたと
かなり驚いた様子の神代さんに、私は笑顔を向けた。
「じゃあ、別に副社長と何かあるわけじゃない?」
珍しく歯切れが悪い神代さんの言葉の意味がすぐにわからなくて彼を見た。
「東雲、俺お前の子なら……」
そう言いながら、神代さんがそっと私の手を握った。
「あ。え? あのごめんなさい」
反射的というか、気持ちがそのまま出たと言ってもいいかもしれない。
触れられた手が日向ではない、そう思ってしまった。
「誰か好きな人がいるのか? やっぱり副社長? でも、あの人は住む世界が違うだろ」
表情を歪めながら言葉を紡ぐ神代さんに、私はこれでもかと頭を下げた。
「あの、本当に気にかけてもらってありがとうございます。わかってるんです。全部。でも、私……」
「悪い、困らせるつもりなんてなかった。ただ副社長を見てたら焦ったわ。忘れて。こらからもいい先輩でいるから」
最後はいつもの優しい笑みを浮かべてくれた神代さんに、私は頭を下げた。
「ずっと優しい先輩だった。もちろん好きか嫌いかと聞かれたら好きだ。でもそれは人としてだとわかる。日向に感じるドキドキも、苛立ちも、やっぱり日向にしか感じない。
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