もう一度あなたと
しかし、いつの間にか学校でも、近所でも日向を見ることがなくなった。
慌てて隣のおばあちゃんに聞きに行った時には、日向はもうそこには戻らないことを知った。
『理由は話せないの』ごめんね。
そう言いながら、春子さんは一通の手紙を私にくれた。

『彩華、いい子でいろよ』
それだけが書かれた手紙。幼い私の恋心はその時あっけなく終わりを告げた。いや、恋と呼んでよかったのかもわからない。
そばにいすぎただけで、単なる思い込みだったかもしれない。
それから数年たち、ようやく私は日向のことを忘れ、大学生活を送り、大手の会社に就職も決めた。

友人もでき、それこそ男友達も数人いた。好意を持ってくれた人もいて、お付き合いをしたこともある。
手をつなぎ、キスをして、そして体を繋げる。ほとんどの人があたりまえにやっていることだ。そう思っていたのに、どうしても私は最後の一線を誰と超えることができなかった。
まるで日向の「いい子でいろよ」という文字が、私に呪いでもかけた様に、悪いことをしている気がしてしまうのだ。
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