もう一度あなたと
父も母も恋愛結婚で、「彼氏の一人もいないの?」そう聞く人たちだったため、決して家が厳しいからとか、そんなことはない。

ただ、そういう場面になると、固まってしまうのだ。付き合った人は初めは我慢強く、ゆっくりと進めてくれようとしていたが、最後は「無理だ」そう言って去っていった。
私だって、どうしてこんな風になってしまうかわからないが、キスをされても、触れられても身体が緊張してしまうのは、どうしようもない。
就職して一年がたったころ、真剣にネットで心療内科を探したこともあった。その記事の中に”心理的なトラウマ”そう書かれていたが、特に何も思い当たらない私には役に立たなかったし、どうすることもできなくなった。
そのうち、私はもう恋愛はできない。一生このまま誰とも結ばれることなく過ぎていくのだと、諦めて仕事に専念をし始めたころ、夜遅く家に帰る途中、隣の家の遠くに光を見た気がした。

日向がいなくなって、数年後、春子さんは引っ越してしまった。それ以来、誰もこの家には住んでいないし、ずっと空き家のままだ。
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