もう一度あなたと
誰かが購入するにしても、かなり大きな邸宅で値も張るからだろう。そう両親が話していたのを思い出す。

買い手がついたのだろうか?

「ねえ、お隣って買い手決まったの?」
「帰るなり何? もう遅いんだから早く夕飯食べちゃってよ」
ただいまの挨拶もせずに尋ねた私に、母は呆れたように声を上げた。
気のせいだったのだろうか。もしかしたら空き巣とか……。
母が用意してくれた食事を食べながら、ずっとそのことが頭を過った。
「彩華、もう遅いから先寝るから、食器ぐらい洗っておいてよ。お父さんもとっくに寝てるからお風呂は静かにね」
母の言葉に適当に返事をしつつ、私は食事を食べ終えるとそっと家を抜け出した。
昔からどうしても気になると、確認しなくては気が済まない自分の性格を呪う。

隣の家と言っても、かなり遠い正門にはいかず、私はポケットからキーケースを取り出す。
そこには、小さな一つの鍵。この数年一度も使ったことのない鍵だ。
隣の屋敷の秘密の小さな扉。昔はお手伝いさんたちの入口だと聞いていたが、今は通いの人しかいなくなり、使わなくなったと聞いていた。
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