離婚前提の妻でも溺愛されています
「お口に合うかわかりませんが豚汁もいかがですか? お好きなんですよね」
 
雫と恭太郞の仲のよさに圧倒されている桐生に、里穂はそっと声をかけた。

「あ、ああ。是非」

雫が言っていたとおり、よほど豚汁が好きなのだろう、桐生は途端に笑みをのぞかせた。

里穂は湯気をあげる豚汁を椀に注ぐと、カウンターの奥から出て桐生の手元に置いた。

「あの、妹は会社でお役に立っているんでしょうか? いつも前向きな話しかしない子なので、実際はどうなのかやはり気になってしまって」

里穂はわずかに迷った後、金目鯛を慎重に盛り付けている雫をこっそり見やりながら、桐生に尋ねた。

「そうですね」

桐生もチラリと雫を眺めると、ふっと目元を緩めた。

「前向き……彼女にぴったりの言葉ですね。どの仕事も手を抜かずに頑張ってくれていますし、頼りにしています」
 
そう言って優しく微笑む桐生に、里穂もホッとした笑顔を見せる。

「そうですか。よかったです」

多少のリップサービスがあるかもしれないが、頼りにされていると聞き安心する。

「それにいつも笑ってますね」

「想像できます。家でもいつも笑っていて、とくに恭太郞君と一緒にいる時は本当に楽しそうなんです」

今も恭太郞が店にいるだけで雫の表情は柔らかく、楽しそうだ。

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