離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真は不安げにそう言うと「あの辺りでもう一軒家を探した方がいいか」と続けた。

「もう一軒?」

「ああ。この先も里穂が店に通うことを考えたら、その方が現実的だろ。改装で店を閉めている間にいくつかあたってみようか」

「でも、あの」

もう一軒と言われても、里穂にしてみればそっちの方が現実的ではない。

費用の問題もあるが、なにより気になるのはこの先のふたりの関係だ。

蒼真との結婚は便宜的なもので、永遠を誓ったわけではない。

蒼真が社長になりメディカルメイクの継続が確定して、雫と恭太郞が結婚すれば、この関係を続ける理由はなくなる。

不確定な未来のために家をもう一軒用意するのは、非現実的でしかない。

「蒼真さんと私はいずれ離婚する――」

「そういえば、明日は店は休みだったよな」

「え? 明日……は、はい。町内会のバス旅行で、ご近所のお店もみんなお休みです」

信号が青に変わったと同時に話題も変わり、里穂は口ごもりつつ答えた。

明日は町内会主催の日帰りバス旅行が予定されていて、佳也子も数年ぶりに参加することになっている。


「母が心配だからって雫と恭太郞君も参加するんですけど、あのふたりの方が盛り上がっていて。恭太郞君は旅の栞をつくって参加者全員に配っていました」

町内会の打ち合せにまで参加して張り切っていた恭太郞を思い出して、里穂は笑い声をあげた。

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