離婚前提の妻でも溺愛されています
蒼真の感心する声が聞こえたと同時に肩に手が回され、抱き寄せられた。

ハッと見上げると、とくに表情を変えるでもなく、蒼真が店内を見回している。

桜を眺めていた時もそうだったが、蒼真にとって手をつないだり肩を抱き寄せたりするのは意識するほどのことではないらしい。

今も混み合う店内を覚束ない足取りで歩く里穂を見かねただけのこと。神経質に反応している自分が情けない。

「先に二階に行こうか」

「はい。でも、そういえば確か二階は予約が必要だったはずです」

人気がありすぎて予約が取れないと、SNSでよく話題になっていたのを思い出した。

「ああ、それなら大丈夫だ」

蒼真はあっさり答え、二階に続く階段に足を向けた。

「桐生さん、ご無沙汰してます。連絡いただいて楽しみにしていたんですよ」

商品を販売している二階に上がった途端、三十代半ばくらいだろうか白いシャツにブラックジーンズの男性が蒼真に気がつき近づいてきた。

長身で引き締まった身体は日焼けしていて、垂れ気味の目をうれしそうに細めている。

「こちらこそ、ご無沙汰しています。突然無理を言ってすみません」

蒼真は男性に恐縮しながら頭を下げている。

「とんでもない。本当なら僕の方が桐生さんにご挨拶に伺うべきなのに。なかなか時間が取れなくて。ところで」

男性がチラリと里穂を見やる。

< 103 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop