離婚前提の妻でも溺愛されています
好奇心が混じる笑顔を向けられ、里穂は蒼真を見上げた。

「妻の里穂です。今日こちらに伺ったのは、彼女に千堂さんの作品を見せたかったからなんです」

蒼真はそう言うと、里穂に優しく微笑んだ。

「こちらは陶芸家の千堂さん。ここの食器は、彼の作品なんだ」

里穂は慌てて姿勢を正した。

SNSにアップされる写真で食器を眺めることはあったが、作家本人を確認したことはなかった。

「初めまして。妻の里穂です。夫がお世話になっております」

ふたりの関係はまだ聞いていないが、妻と紹介された反動で、ついそれらしい言葉を添えてしまった。

頭を下げながら、里穂は恥ずかしさで顔がかあっと熱くなるのを感じていた。

「あの、本当にいいんでしょうか」

里穂は手にしていたナイフとフォークを置き、蒼真に尋ねた。

蒼真への申し訳なさと弾む気持ちが交互に押し寄せてきて、うまく心をコントロールできずにいる。

「いいよ。何度聞かれても答えは同じ。問題ない」 

蒼真はのどの奥で笑いながら、答えた。

「そうですか……ありがとうございます。でも――」

「でも、はいいから。俺からの改装祝い。だから遠慮せずに受け取ってほしい」

「はい」

語気を強めた蒼真に、里穂は焦る。

何度も同じやり取りが続いて、いよいよ呆れられたのかもしれない。

これ以上蒼真を煩わせるわけにもいかず、里穂は深く頭を下げた。

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