離婚前提の妻でも溺愛されています
「もちろん、お父さんから引き継いだ食器を使うなと言ってるわけじゃない。ただ、店も新しくなるし食器も新しい物を加えて里穂の店として……いや、最近は笹原と恭太郞もやたら店に顔を出してるが……。とにかく、いい機会だからこれからは里穂好みの店をつくっていけばいいと思ったんだ。食器はそのアイテムのひとつだ」

「私好みの店」

里穂はぼんやりつぶやいた。そう言われても、いまひとつぴんとこない。

「店の再オープンに間に合うように焼いてもらえるように頼んでおいたから、里穂は楽しみにしていればいいよ」

「本当に、ありがとうございます」

どこまでも優しい蒼真には感謝ばかりだ。

今日の食器も、本当なら一年以上待たなければ手に入らない人気商品ばかり。

千堂に無理を言って年内での納品で引き受けてもらった。

『俺の作品が世間に知ってもらえたのは桐生さんのおかげなんです。だから今回声をかけてもらえてうれしいんですよ。それも奥さんのお店で使ってもらえるなんて光栄です』

そう言って胸を張る千堂の表情だけで、蒼真への思いが理解できた。

聞けば杏華堂の広告ポスターに千堂の食器が使われたことがきっかけで、彼の作品が世に知られるようになったそうだ。

「千堂さん、蒼真さんにすごく感謝していましたね」

「いや、俺の方が千堂さんに感謝してるんだ」

それまでの軽やかな表情を整えて、蒼真は首を横に振る。

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