離婚前提の妻でも溺愛されています
「前に俺が販売を手掛けた商品。美容液だけど、発売当初は全然売れなかったんだ」

コーヒーを口に運びながら、蒼真が話し始めた。

「品質に自信はあったが購買層が限定される高価格帯の商品というのがその一番の理由だ。俺のマーケティング不足。入社して五年、仕事にも慣れていくつかヒット商品も出していたから自分の力を過信して、いや調子に乗っていたんだ」

蒼真は自嘲気味にそう言って、小さく息を吐いた。

普段聞くことのない抑制のきいた声から、当時の蒼真が味わったはずの苦しみが伝わってくる。

「それが、だ」

蒼真はそれまでの固い表情を緩め、言葉を続けた。

「販売戦略の見直しを急いでいた時に、突然売上げが伸び始めた」

「どうして、ですか?」

蒼真は苦笑し、椅子の背に身体を預けた。

「商品の広告ポスターに使わせてもらった千堂さんの作品が話題になって、SNSでポスターの写真が広まったんだ」

蒼真は手元のスマホを操作し、里穂に画面を見せた。

「これ、見たことがあるかもしれません。化粧品を乗せているこのお皿がかわいいって店に来たお客さんが言っていたような……。五年くらい前だったと思います」

スマホに表示されている写真には、白い花形の皿の上に置かれた紺色の丸いフォルムのボトルが映っている。

「そうです、この白いお皿です。化粧品の丸みとぴったりで、私もかわいいって思いました」

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