離婚前提の妻でも溺愛されています
当時の里穂は店を続けるだけでせいいっぱいでおしゃれや化粧は二の次。それにこの美容液は確か三万円で、里穂が手を出せる値段ではなかった。

白いトレイも手に入れたいと思わなくもなかったが、店のことに追われてそれどころではなく、すぐに頭の中から消えていた。

「でも、やっぱりかわいいですね。この美容液を乗せたらぴったりです」

「それ。売上げが伸びた理由はそれなんだ。この花形の皿の上に美容液を乗せて部屋に置くのが流行って、小皿と美容液、両方の売上げが一気に伸びた」

「そんなことが、あるんですね」

意外すぎる展開に、里穂はスマホの写真をまじまじと見つめた。

「それがきっかけでうちの商品が消費者の手に渡るようになった。それからは、実際に使ってみると値段は高いがそれ以上の効果があると口コミが広がって、結局その年のうちの一番のヒット商品に成長した。今もそのシリーズが、うちの化粧品事業の売上げの柱だ」

ほんの少し和らいだ表情で、蒼真はスマホの写真を眺めている。

「俺はあの時、千堂さんのこの作品に助けられた。俺だけじゃないな、この商品を何年もかけて作りあげてきた開発メンバーとか製造部とか。大勢の社員の努力が報われた。だから、千堂さんにはどれだけでも感謝したい」

写真を見つめる蒼真の厳粛な表情に、里穂は小さく息をのむ。

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