離婚前提の妻でも溺愛されています
「自分の力を過信せずに、謙虚に仕事に向き合え。この写真を見るたびにそう言われている気がする。俺にとっての戒めのようなものかな」

蒼真はしんみりとした空気を変えるように、明るくそう言ってスマホを手元に戻した。

「戒め」
 
その言葉を蒼真は何度心の中で繰り返していたのだろう。

結果的に商品はヒットし、その後も順調に展開しているようだが、蒼真にとってその時の出来事は、彼の仕事への向き合い方に大きな影響を与えたはずだ。

〝自分の力を過信せずに、謙虚に仕事に向き合え〟 

蒼真の仕事に対する真摯で誠実な姿勢が垣間見えたような気がした。

「今日、千堂さんの作品を注文したのは、里穂の料理が映えると考えたのが一番の理由だが」

 続く蒼真の話に、里穂は静かに耳を傾ける。

「彼にあの時の礼をしたかったんだ。俺の一方的な気持ちを里穂に押しつけるようで申し訳ないが、彼の作品を、新しい店で使ってもらえないか?」

「もちろん、喜んで。今からどんなお料理を合わせようか、ワクワクしています」

里穂はきっぱり答えた。断る理由などない。

それどころか蒼真が思い出したくないに違いない過去を打ち明けてくれたことがうれしくて、今すぐにでも食器を受け取りたいくらいだ。

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