離婚前提の妻でも溺愛されています
「それは恭太郞も一緒です。いや、恭太郞の方が笹原と一緒にいると楽しそうで、正直見せつけられてうんざり……いや、まあ、俺も和ませてもらってます」
 
桐生は慌てて言い直しながらもやはり豚汁が気になるのか「いただきます」と里穂に軽く視線を向け口に運んだ。

「……うまい」
 
ひと口食べてすぐ、桐生はかみしめるようにつぶやいた。

口に合ったようでホッとし、里穂は胸を撫で下ろした。

店に入って来た時には固く疲れているように見えた表情も、今は力が抜け和らいでいる。

「おかわりもありますので、声をかけてください。ごゆっくり」
 
里穂は満足そうに箸を進める桐生に声をかけ、調理場へと戻る。

すると入れ替わりに恭太郞が大皿を手に桐生の元へと向かった。

「さあ、この絶品の金目鯛を口にできる幸せを、じっくりかみしめるがいい」
 
恭太郞の芝居じみた大きな身振りと声。

桐生は呆れ顔を恭太郞に向けた後、早速口に運んだ。

その瞬間、桐生は目を細め優しい笑みを浮かべた。

そして、傍らでは恭太郞が桐生の笑顔を眺めながらガッツポーズをしている。

話に聞いていたとおりのふたりの仲のよさが垣間見えて、里穂の気持ちもほころんだ。





「今日は突然ごめんね」

閉店後、翌日の仕込みを終えて二階に上がった里穂に、雫がお茶を淹れながら声をかけてきた。

「今日? なんのこと?」

< 11 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop