俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
杏を溺愛する蒼真の父が彼女の言葉に逆らうわけがなく、結納はあっさり省略された。

「お姉ちゃんは婚約指輪は必要ないと言い出すはずだから、さっさと用意して押しつけた方が手っ取り早い」

「それも、雫が?」

蒼真は優しく微笑んだ。

「さすが妹、里穂のことをよく理解してる。今、指輪は必要ないって言おうとしていたよな」

「それは」

反論できず、里穂は口ごもる。

「いや、いい。俺も今まで女性に指輪を贈ることなんてなかったから、婚約指輪のことは頭になかったし。ただ、そのことで笹原は」

「余計に私たちの結婚を疑うようになった……ってことですね」

言葉を引き継いだ里穂に、蒼真は苦笑し、うなずいた。

「すみません。雫のせいで気を使わせてしまって」

婚姻届を提出してから多少は和らいでいるが、雫は里穂の結婚を今も訝しんでいて、里穂のことを絶えず案じている。

今まで以上に店に顔を出すのも、結婚後の里穂の様子が心配だからだ。

「だから、俺がひとりで選んだ指輪だが、受け取ってもらえないか?」
「わかりました」

雫の疑いを逸らすためだなら断るわけにはいかない。

蒼真は里穂の反応にホッとし表情を和らげた。

そしてケースから指輪を慎重に取り出すと、里穂の左手を取り薬指にそっと通した。

するりと収まった指輪の優しい感触に、里穂の心が大きく揺れた。

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