離婚前提の妻でも溺愛されています
「昨日のカフェで部長が常務に言ったんでしょう? そこいた人たち、びっくりして卒倒しそうだったって。今日は一日そのセリフがあちこちから聞こえてきてドキドキしっぱなし。部長って意外に情熱的? お姉ちゃんラブなのね」

「ラブって……そんなこと、ないから」
 
里穂は苦笑し、自分に言い聞かせるように答えた。
 
確かに昨日、カフェで蒼真はそう言っていたが、それは常務に偽装結婚であることを気づかれないようにするためで、本心ではない。

それはわかっているが、きっぱりとそう言った蒼真を思い出すと、どうしようもなく胸がドキドキし、そわそわしてしまう。

たとえ本心でなくても、雫いわく情熱的な言葉のパワーはかなりのものだ。

俺が愛する女性を侮辱しないで下さい〟

つい気が緩むと頭の中を同じセリフが何度もリフレインする。

もしもそれが蒼真の本心だったら。

ふと浮かんだ思いに、里穂は慌てて蓋をした。

「あー、雫、なに食べてる? 俺も腹ぺこ」

入口の扉がガタガタと音を立てながら開いたかと思うと、恭太郞が顔を出した。

「里穂さん、俺にもなにか残ってるのでいいから食べさせて。話題の男のおかげで昼も食べ損ねたんだ。親友の俺から蒼真のラブラブぶりを聞き出そうとみんな必死。本当、大変だよ」

大変だと言いながらも恭太郞はテンション高めでやけに明るい。

「話題の男?」

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