離婚前提の妻でも溺愛されています
第五章 別れの兆し
第五章 別れの兆し

「明日、お店の荷物が倉庫に運ばれるそうです」

里穂はそう言って、隣を歩く蒼真を見上げた。

灯に照らされた横顔はとても優しくて、里穂を気遣っているのがわかる。

改装前最後の営業を終え店を出た時にはさすがに感傷的になり胸に込み上げるものがあったが、なにも言わず里穂の手を取ってくれた蒼真のおかげで、マンションの前でタクシーを降りた時には気持ちは落ち着いていた。

今もマンションの敷地内を手をつなぎ歩きながら、ぽつりぽつりと穏やかに言葉を交わしている。

「明日のことなら伯父から聞いている。工事のスケジュールと経過を毎日更新して送ってもらえるように頼んであるし、なにか問題があれば俺に言ってくれれば対処するから安心していい」

蒼真は真剣な眼差しで里穂に言い聞かせる。

里穂たち家族が女所帯だという理由で小山につけいられていたこともあって、蒼真は店の改装に関してかなり神経質だ。

里穂や雫よりも改装プランを熟知しているのは間違いない。

調査の結果、店舗部分だけでなく住居部分にも本格的に手を加える必要があるとわかり、ショールームに出向いて設備を選ぶ時や、工事前の近隣への挨拶回りの時にも蒼真は同行してくれた。

忙しい蒼真に頼るのは心苦しくて初めは遠慮していたが、蒼真はとりあわなかった。

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